1店舗目が軌道に乗り、2店舗・3店舗と展開を加速させていく時期は、経営にとっての大きな転換点です。しかし、仕入れの仕組みを整えないまま店舗数だけが増えていくと、食材調達が足かせになって拡大のスピードを削ぐことがあります。

「各店が独自に仕入れているため本部で原価が把握できない」「新規出店のたびに仕入先との契約交渉をゼロからやり直す」──こうした課題は、多店舗展開の初期に多くのチェーンが直面するものです。

本記事では、チェーン拡大期に食材調達で躓かないための仕入れ体制づくりを、3つの視点から整理します。


なぜ多店舗展開で「調達の壁」が生まれるのか

1店舗だけであれば、オーナーや店長が近隣の仕入先と直接やり取りし、必要なものを必要なだけ発注する──それで十分に回ります。

ところが店舗数が増えると、同じやり方では立ちゆかなくなります。各店が独自に仕入先を持つと、仕入れコストも品質もバラバラになり、本部が全体のコストを把握・管理することが難しくなります。また、チェーン全体としての発注量が増えているにもかかわらず、それが1社に集まっていなければスケールメリットも発揮されません。

課題 1〜2店舗 5〜10店舗以上
発注管理 店ごとに担当者が対応できる 店舗間でバラツキが生まれやすく、集計・管理が煩雑化
原価把握 オーナーが肌感覚で把握できる 本部が全店の原価をリアルタイムで把握しにくくなる
仕入先交渉 新店のたびに個別交渉が必要 交渉窓口が分散し、価格条件が店舗ごとに異なる
物流負荷 店舗ごとの配送で対応可能 配送ルート・回数が増加し、物流コストが膨らみやすい

準備① 発注の「一本化」で管理コストを下げる

多店舗展開を安定して進めるためには、早い段階で発注窓口を集約することが重要です。各店がバラバラに発注する体制から、本部(または発注担当者)が一括して仕入先に発注する体制に移行することで、管理コストを大幅に削減できます。

発注の一本化は、単なる業務効率化にとどまりません。全店分の発注量が1社に集まることで、価格交渉の際の「量の力」を持てるようになります。交渉において「全店合計で月○ケースの発注になる」という実績・見通しを示せるかどうかは、仕入れ条件の有利・不利に直結します。

発注システムの整備も並行して進めると効果的です。WEB発注ができる仕入先を選ぶ、または本部一括発注に対応した発注フォーマットを統一することで、担当者の業務負担を抑えながら精度を上げられます。


準備② 物流ネットワークを「チェーン対応型」に整える

多店舗展開において、物流の設計は調達戦略の根幹です。各店舗に安定して、かつ効率よく食材を届けられる仕入先・物流体制を持っているかどうかは、新規出店時のコストに直接影響します。

注目したいのが3温度帯同時配送への対応です。冷凍・チルド・常温の食材を1回の配送にまとめることができれば、受け取り回数が減り、店舗スタッフの対応負荷と物流コストの双方を抑えられます。新規出店エリアに配送ネットワークが届くかどうかも、仕入先選定の重要な確認事項です。

チェック項目 確認のポイント
配送対応エリア 出店予定エリアまでカバーしているか
3温度帯対応 冷凍・チルド・常温を1便にまとめられるか
配送頻度・リードタイム 曜日固定か、緊急時に追加便が出せるか
最低発注ロット 新規店舗の発注量でも柔軟に対応できるか
欠品時の代替対応 欠品発生時に早期の代替品提案があるか

準備③ スケールメリットを「交渉力」に変える仕組みを作る

店舗数が増えることは、仕入先にとっても「より大きな取引先」になることを意味します。この立場の変化を、価格・サービス・優先供給といった条件改善に活かせるかどうかが、多店舗展開を有利に進めるための鍵です。

スケールメリットを交渉力に変えるには、発注量の実績と見通しを数字で提示できる状態にしておくことが前提です。「現在○店舗で月△ケース、1年後には□店舗になる計画」という具体的な情報を持って交渉の場に臨むことで、仕入先との関係を対等な取引に近づけることができます。

また、急成長中のチェーンは「今後の取引拡大」を期待される存在でもあります。単価の引き下げだけでなく、優先出荷、新商品の先行案内、季節品の確保といった条件も、交渉の俎上に乗せやすくなります。


多店舗展開と調達体制:段階別の整備優先度

段階 店舗数の目安 優先して整えること
初期 1〜3店舗 仕入先との取引条件の記録・標準化
拡大期 4〜10店舗 発注の一本化、物流体制の見直し
チェーン化 11店舗以上 本部集中発注体制の確立、スケールメリットの交渉への活用

まとめ:拡大のスピードに調達体制を合わせる

多店舗展開の成否は、メニューや立地だけでなく、「食材を安定して・低コストで・手間なく調達できる仕組みを持っているか」にも大きく左右されます。拡大の加速に合わせて、発注の一本化・物流ネットワーク・スケールメリットの活用という3つの準備を段階的に整えていくことが重要です。

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